夢の終わりに

第 4 話


つけられていた。
いつから、と言われると定かではないが、少なくてもここ1週間ほど、私は誰かにつけられていた。
まあ、私は見ての通りの美少女だ。
美しく長い髪も、この女性らしい柔らかなラインの肢体も、男どもの目をくぎつけにしてしまうのは仕方がない。よこしまな欲望を抱き、私を襲おうとする男など、それこそはいて捨てるほどいるのだから。
だが、今つけて来ている人物は、その手の下種な男とはどこか違う。
あの手の男は、私の動向を伺う者、そして仲間を呼び、誘拐するための手はずを整える者とに分かれ、準備が出来次第行動を起こすが、この男はただ私をつけて来ているだけだった。わざと人気のない所を歩いたりしてみたが、それでも近寄ってはこない。
これでは、追い払う事もショックイメージで昏倒させる事も出来ない。
何てめんどくさいんだ。
さて、一体どんな用事だろうか。
誰かが私の監視を?
それにしては尾行がへたくそ過ぎる。
こんな事を続けていても、苛立ちが増すだけだなと、私は相手を誘い出すため、人気のない路地裏を選び歩き出した。
いつも通り一定の距離を開けついてくるので、私は後ろを振り返る。男は慌てて、そう、あまりにも不自然なほど慌てて、携帯を取り出すと誰かと話している風を装い始めた。へこへこと頭を下げて話す様子から、気の強い男では無さそうだ。
私はそれを確認した後、全力で走り出した。
それに驚いた男は、慌てて携帯をしまうと走り出す。
ああ、馬鹿な男だ。あからさますぎるだろう。
これだけ不慣れなら、入り組んだ路地の角を曲がってそこで待てば。

「私に何か用か?」

息を切らせた男が、角を曲がった所で慌てて立ち止まった。
しまった、ばれた!と顔にでかでかと書いているが、むしろばれないと思っていたのかこの男は。この1週間尾行してきた男の顔をようやくまともにみたが、人が良さそうな、どこか間抜けな顔をしていた。帽子を深く被っているから目元は解らないが、口元だけでもそれが解るほどの間抜けさだ。間違っても私に危害を加えようとしている顔ではない。まあ、人はみかけによらないから、油断する事はないが。

「いや、その、おれは、あの」
「なんだ?言いたい事があるならはっきり言え、男だろう?」
「いやまあそうなんだけど」
「この私に一目ぼれでもしたか?」

だからストーカー化してつけまわしたのか?

「確かに凄く可愛いけど、それはないです」
「無いのか」

私を凄く可愛いと言うのだから、人を見る目はありそうな男だ。

「で、何の用だ?」
「えーと、貴方はC.C.さん、ですよね?」
「そうだな。で?」

私をC.C.と知った上でという事は、不老不死絡みか、あるいは黒の騎士団に関わるネタを欲するフリーライターか。どちらにせよ相手にしたくはない部類だ。

「えーと、ですね。教えてほしい事があって」
「断る」
「え?あ、いや、お礼はちゃんとするから」
「何故私がお前に教えなければならないんだ?大体何を知りたいんだ?」
「えーと、貴方がゼロの愛人だったと教えてもらって、それで」
「ゼロの正体でも知りたいか?」
「あ、いや、それは別に」
「・・・珍しい男だな。普通はあの仮面の下が誰か知りたがるだろうに」
「今のゼロも、前のゼロも、俺、多分知ってるから」
「・・・何?」

そう言うと、男は帽子を脱いだ。
ようやくはっきりと見えた顔だが、やはり間抜けに見えた。
とはいえ、どこかで見た覚えがある顔だ。
どこだっただろうか?

「俺は、リヴァル。リヴァル・カルデモンドって言います。その、昔アッシュフォード学園の生徒会に所属していて」
「知っている。ルルーシュを賭けチェス連れまわしていただろう?」
「え?まじで?なんで俺の事を!?」
「私は、ゼロの愛人だろう?」

ゼロが誰なのか。
誰だったのか。
それを知っているなら、聞かなくても解るはずだと言外に告げれば、リヴァルは納得したように頷いた。

「だけど、あいつが俺の話をC.C.さんにしてるなんて」

友達の話とか、そういうのしなそうなのに。

「それだけ、お前たちの事が大事だったんだろう。で?一体どうしたんだ?私に何が聞きたい?」
「え?聞いていいんですか!?」
「お前はあいつの悪友だから、特別にな」

やった!と、いい歳の男が嬉しそうに言った。

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